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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)9533号 判決

原告 遠藤俊郎

右訴訟代理人弁護士 渡辺良夫

同 四位直毅

同 南元昭雄

被告 藤田剛一

右訴訟代理人弁護士 深田鎮雄

同 和田敏夫

主文

被告は原告に対し、金一三五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年一一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

一、申立

原告は、「被告は原告に対し、金一四五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年一一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

二、請求原因

原告と被告とは、昭和四二年九月二八日原告が被告に対し花屋共同経営の解散に伴う出資金の返還請求権金一四五、〇〇〇円の債権があるものとして、これを消費貸借の目的に改め、被告は原告に対し、返済期を同年一〇月末日として貸金一四五、〇〇〇円を返済することを約した。

よって、原告は被告に対し、貸金一四五、〇〇〇円およびこれに対する返済期の翌日から支払いずみまで年五分の割合による損害金の支払いを求める。

三、答弁

請求原因事実を否認する。

四、抗弁

(1)  原告と被告とは、昭和四二年七月ともに出資して、フラワーショップ藤という商号で共同して花屋営業を経営することを約した。原告は、その営業上の出資金として、昭和四二年八月三〇日金三〇、〇〇〇円、同年九月五日金三三〇、〇〇〇円、同月七日金四五、〇〇〇円を醵出したが、同月二〇日ごろ右出資金のうち金二〇〇、〇〇〇円を払戻した。原告は、同月二八日被告に対し、共同事業を脱退する意思表示をしたので、原被告は協議のうえ、原告の出資金の残金二〇五、〇〇〇円をもって、共同事業のため賃借した店舗についての損害金として金七〇、〇〇〇円を原告が負担することを約したのである。

(2)  以上のとおり、被告が預っている原告の出資金の残金は金一三五、〇〇〇円であるのに、被告は、誤って金一四五、〇〇〇円の借用証を原告に差入れたのである。しかも原告が共同事業から脱退することによって、当然に出資金全額の返還請求権を取得するものではないから、原告主張の準消費貸借は、既存債務が存在せず無効である。

五、抗弁に対する認否

第一項の事実を認め、第二項の事実を否認する。被告主張の外に原告は金一〇、〇〇〇円の出資金を醵出したから、出資金の合計は金四一五、〇〇〇円である。被告は、原告の脱退を承諾し、爾後被告だけで花屋経営を継続することとし、共同事業を解散し、清算した結果、被告は原告に対し、出資金を返還することを約したのである。

六、証拠≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫によれば、原告と被告とが昭和四二年九月二八日原告主張のとおり準消費貸借を締結したことが認められる。右認定に反する証拠はない。

二、抗弁について

抗弁事実第一項記載の事実は、当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば、原告は、共同事業に対し金四〇五、〇〇〇円しか出資しなかったことが認められる。

右の事実と≪証拠省略≫によれば、原告が昭和四二年九月二八日被告に対し、共同事業を脱退する旨の申出をしたので、被告もこれに同意し、ここに原告と被告とは、原告は、共同事業を脱退するが、被告は単独で事業を継続すること、被告は原告に対し、出資金四〇五、〇〇〇円から既に払戻しを受けた金二〇〇、〇〇〇円と賃借店舗の損害金に充当するための金七〇、〇〇〇円を控除し、残出資金一三五、〇〇〇円に相当する金員を交付すること、一方被告は共同事業経営の店舗として、原被告の出資金をもって賃借した店舗において、依然として賃借人として花屋経営をすること、店舗の賃貸人に差入れた敷金は被告が取得すること(かくして被告は、後日賃貸人かい敷金五九〇、〇〇〇円余の返還を受けて、これを自己の生活費に費消した。)共同事業のため購入した什器備品および自動車は、被告がこれを取得または使用するなどの合意をしたことが認められる。≪証拠判断省略≫

右の事実によれば、原告と被告とは、ともに出資して共同して花屋営業を経営することを約したもので、この契約は、組合契約である。ところで、二人だけで組織した組合において、一人が脱退するときは、組合の存立は不可能となるから、一人の脱退は組合の解散事由となる。組合が解散したときは、清算関係を生じ、組合員の持分の払戻しは、残余財産の分配額に限るのを原則とする。しかし、民法の組合の清算に関する規定は、すべて任意規定であるから、これと異なる清算方法も無効ではなく、組合員全員の合意をもって、特別な清算手続をしないで、適当な方法で財産の帰属処分を決めて清算手続に代えることも可能である。本件について見れば、原被告二人をもって組織された花屋営業の組合関係が原告の脱退により消滅したので、組合員たる原被告の合意をもって、被告が組合の目的たる事業を単独で継続し、一方被告は、脱退者たる原告に出資金の一部である金一三五、〇〇〇円と同額の金銭を交付することを定めたものと解される。前説示のとおり、このような清算に代る合意は有効であるから、これにより、被告は、原告に対し金一三五、〇〇〇円の支払義務を負担したわけである。

三、以上により、被告は原告に対し、金一三五、〇〇〇円の支払義務があるところ、これを目的として金一四五、〇〇〇円の準消費貸借を締結したのであるから、この準消費貸借は既存債務の存在する限度で有効であり、これを超える部分は無効である。したがって被告は原告に対し、貸金一三五、〇〇〇円およびこれに対する返済期の翌日である昭和四二年一一月一日から支払いずみまで年五分の割合による損害金を支払う義務がある。

よって、原告の請求を右の限度で認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村弘雄)

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